「いやだ……いやだ……いやだ……」
彼女が独り言を呟いている。
何もない部屋の隅で、耳をふさいで蹲りながら、焦点の合わない目を見開いて。
「うるさい…うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい――」
震えとともに声が大きくなる。頭の中で過去のトラウマが交錯して制御が出来なくなっている。こういうときはただ黙って静かに側にいてやるのが得策である。
ゆっくりと彼女に歩み寄り、屈んでそっと胸に抱く。
彼女がすがるように胸にしがみついてくる。シャツを掴む手に力が籠もる。
「あ"あ"あ"ァ"ァ"ァ"ーーー……ア"ア"ア"ア"ア"………」
獣の様なうめき声を立てて身体が強張る。その背中を優しく撫でる。彼女の正気が戻るまで、じっと静かに耐え忍び、待ち続ける。
これがこの先あとどれだけ続くか分からない。だけど、彼女がこれからもこうして自分を求めてくれるなら、僕はいつまでもこの"習慣"を繰り返す。彼女が求める限り、いつでも僕は拠り所になる。
ずっと、誰よりも僕が彼女に相応しいから。
4/9/2023, 5:41:04 PM