中宮雷火

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【春愁】

卒業式で泣かない私は、「冷たい人」なのだろうか。
でも、これからの人生で哀しいことなんていっぱいあるではないか。
卒業式なんて、人生の些細なパーツに過ぎないと思うのだ。

そんなことを考えるのは、私が独りぼっちだからだろうか。
高校生活で、恋人はおろか友達と呼べる人は全く出来ず、失うものが何も無いのだ。
涙など、出るわけないじゃないか。

校長先生から卒業証書を受け取る名シーンでも、涙はちっとも沸かなかった。
最後のHR、啜り泣く声が聞こえる中で、私はぼんやりと窓の外を眺めていた。

最後のHRが終わり、皆は鞄から卒業アルバムを取り出した。
卒業アルバムには、寄せ書きが出来るページがある。
各自泣きながら寄せ書きをする中、私はこっそりと教室から抜け出した。

混み合う廊下を通り、私は南校舎に向かった。
南校舎には音楽室や家庭科室などの特別教室しか無い。
私はパタパタと足音を響かせて、ある扉を開けた。
ギィィと音を立てて扉を開くと、そこには小さな庭があった。
中庭だ。
近くにはベンチがあるし、綺麗な桜を眺めることができる。
私はいつものようにベンチに座り、ただ風景を眺めることにした。

昼休みは、いつもここでお弁当を食べていた。
わざわざ南校舎に来てお弁当を食べるのは私くらいだから、私は静かな景色しか知らない。
鳥がピチピチと鳴いて、風がざわめき、葉っぱが擦れる音だけが、美しく響くのだ。
ここは疎ましい喧騒とは程遠く、私にとっての"隠れ家"だった。

正直、高校生活の思い出なんて無い。
先生の話が面白かった、とかそんなことくらいだけだ。
いや、こんな記憶でも、思い出と呼んで良いのだろうか。
高校生活のことなんて、何か特別なきっかけがない限り、もう二度と思い出すことは無いのだろうか。
それとも、こんな高校生活を思い出す日が来るのだろうか。
いずれにせよ、この日々はもう二度と戻ることは無い。
私は中庭を後にした。

3/24/2025, 11:10:31 AM