題名『もう二度と』
突然だが、俺には前世の記憶がある。
何故そんなものがあるかはわからない。
前世も、今世と殆ど変わらない生活。
…というよりは、今世に酷似した生活だった。
家族構成も一緒。俺、弟、母の三人。父はいなかった。
俺の名前も柊斗。弟の名前も楓真。母の名前も穂乃果だった。
身長170前後、体重は40台前半、ぼさぼさの黒髪の短髪。
ひょろひょろの軟弱で無愛想な大学生。全て一致していた。
ただ前世と全く違うことが一つ。
「柊斗兄さん、ご飯できたよ」
「兄さんの好きな肉じゃが!食べる?」
「さすが楓真、食べる食べる」
弟が、今日も健やかに生きているということだ。
…思い返せば、馬鹿だったなぁ。自分。
前世も今世と変わらず、母さんは俺の二十歳の誕生日に死んだ。
俺は弟にひどく嫌われていた。
「兄さん!遊ぼー!」
「うるさい、勉強してんだって」
「えー、サッカーしようよー」
「黙れ!向こうで勝手にやってろ!」
「…はーい、ごめんなさい」
母さんが生きてる間はそんな会話ばっかりだった。
いい職に就かなきゃこんな環境じゃ生きられないと思って、
自分のために必死だった。
結局、母さんは死んだ。過労死だった。
弟は部屋に引き篭もるようになった。
楓真は母さんが大好きで、俺のことが大嫌いだったから。
俺はそれでもなお、弟を養うのが面倒でしかなかった。
コンビニで適当に飯を買って、部屋の前に置く。
それだけを繰り返してた。
部屋の中で泣いたり、腕を切ってたりするのも知っていた。
知らないふりをした。
弟は、近いうちに部屋で首を吊って死んだ。
前世の俺は最低人間。
だから、必死に今世で償おうとしてる。
結局母さんを守ることはできなかったが、
まだ、楓真は俺の隣で幸せそうに笑ってる。
「兄さん!勉強落ち着いた?」
「うん、今は暇だよ」
「じゃあ久々に、サッカーしない?」
「…久々だね、いいよ」
もう二度と、この笑顔を失わないように。
俺は今日も、楓真の隣で息をする。
3/25/2025, 4:48:08 AM