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"遠い鐘の音"

夕方の5時過ぎのこと。私は母の言いつけを破って家の前の木々の中に入っていた。

理由も伝えられずダメと言われてしまえば気になる物で、家で母の帰りを待つには私の体力も有り余りすぎている。

ただ少し、変わり映えのしない日常に嫌気も差していた。

何か、非日常的な何かが欲しかった。
何も起こらなくても、普段立ち入ることのない場所に行くというだけで素晴らしいことだった。

そう思い立ってしまえば早いもので、浮き足立って玄関に行き、靴を履く。
普段よりもしっかりと靴紐を結んで玄関を開けた。

森の中は鬱蒼としていて、鳥が鳴き、冷えた風に木もひしめいていた。

期待しているようなことも特になかったので、臆する事なく奥へ進む。
小さな崖に登って、露出した根を踏んで渡って、乾いた木の皮を触って奥に進んで行った。

どこを振り向いても木しかなくなった時、6時のチャイムが鳴った。
それは普段よりも小さくて、うんざりするほどの反響も聞こえない。

ああ、まずいのかもな。なんて、他人事に考えてみれば
もう一度、遠い鐘の音が鳴る。

森の中で音がこだまする。

私は、遠い鐘の音を背中に聞きながら森の奥へ足を進めた。

12/13/2025, 11:02:19 AM