時を告げる
私が生まれ育った山間の小さな部落は同姓が多く、姓でなく屋号で呼び合うのが常だった。ブンザヤシキ、ヤダイ、カネサ、元の意味など忘れられて久しい屋号がほとんどだったが、私の家の屋号トキノヤにはいわれが伝わる。時計があるわけでも鐘があるわけでもないこの家、しかしこの家の古井戸が「時を告げる」のだという。「時を告げる」のがどういうことか私は知らないが、「時を告げる」の意味がわかったと言った父はしばらくして肺がんで死んだ。「時を告げる」とはこういうことなのねとつぶやいた母はその夜脳出血で亡くなった。
9/6/2024, 12:40:08 PM