ミミッキュ

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"また明日"

 ハナお気に入りの紐型猫じゃらしを手首のスナップを使い、床で蛇のようにうねらせる。
 数メートル先でハナがお尻を上げながら左右小刻みに振って力をため、一気に飛びかかる。
 が、既のところで猫じゃらしを頭上に上げ、突撃を回避。
 と思ったが、流れること無く突撃の勢いを使って踏み込み、ジャンプした。前足が猫じゃらしの先を掠める。
「おぉ。惜しいが、前より最高到達点ちょっと上がったな」
 避妊手術を終えて初の猫じゃらし。これまでは蹴りぐるみで遊ばせていて少し衰えたかと思っていたが、全くそんな素振りは見えなかった。
 むしろ身体の使い方が術前より上手くなっている。身体が流れること無く、即次の動きに入っている。前よりいくらか動かしやすくなっているのだろう。
 術後の食欲低下、体力減少が心配だったが、少なくしていた量を元に戻すとペロリと余裕で食べ切り、体力も殆ど変わらず。昨日沢山遊んでもらったにも関わらず、業務を終えて戻ると『遊んで!』と言わんばかりの鳴き声で出迎えられた。
「はい、今日はお終い」
 そう言って紐型猫じゃらしを畳んでいると「みゃあん」と鳴いて訴えるように見上げてきた。『まだ遊ぶ』と駄々を捏ねている顔だ。
「もう終いだっつの。もう一時間遊んでんぞ」
「みゃあ」
「駄目だっつの。これ以上動いたら晩飯吐くぞ。……ったく、体力底なしの体力オバケが」
 畳み終えた猫じゃらしを机の一番下の引き出しに仕舞う。
「また明日な」
 机の隅に置いていた猫用ささみのパッケージを取り、チャックを開けて中から三つ取り出して一つずつハナの前に出して食べさせる。
 美味しそうにささみを食べるハナに、小さな笑みが零れる。
 三つ食べ終えると「みゃあうん」と鳴いてベッドの上に飛び乗り、布団の中に潜った。
「ふあぁ……」
 ルームランプに灯りを点け、部屋の灯りを消して自身も布団の中に潜る。
「どの辺まで読んだっけ……」
 栞を挟んだページを開き、栞を引き抜いて昨日読んだ最後の行を探す。目的の行をすぐに見つけると程、ハナが布団の中を動いて俺の腹の上に乗って身体を丸めた。
「……おやすみ」
 ハナに囁くような声で言い、次の行から読み始めた。

5/22/2024, 12:19:24 PM