「星に包まれて」
いつもの学校の帰り道、街灯の少ない田んぼのわきを、自転車の明かりで進む。ぬるくも冷たくもない風を受けて、前を行く悠のシャツがはためいていた。いつもの場所で悠が止まる。幼なじみの僕たちの関係は少し不思議だ。特に会話はしないけれど、並んで帰っては、こうしてどちらからともなく夜空を見る。僕はこの時間は嫌いじゃなかった。
「月が綺麗だと星は見えないんだって」
見上げながら悠がぼそっと言った。僕にも、聞こえるように。胸が一瞬チクっとして顔が熱くなったのは、その表現に心当たりがあるからだろう。若干、まわりくどい言い方への怒りもわいた。あえて追及はしないけれど、要するに、二つを同時には望めないということなのだ。やがて、悠は今度は僕を向いて言った。
「一方が明るすぎて、もう一方を消してるように見えるかもしれない。でも、どっちも一瞬だって消えてない。ただ、目には見えないだけで」
この瞬間、思い出した。悠はそんなやつだった。口下手で分かりにくいけど、いつも僕に小さな光をくれる。そしてまた気付く。悠の不器用な言葉や行動の一つ一つが僕の背中を押していたこと。僕はずっと、星に包まれていたということ。
12/30/2025, 4:43:14 PM