過去を彷徨う夢だ。
名前のわからない彼を私はよく知っている。
黙って直ぐ側にいる、安心する感覚。
姿は知っている、でも名前を呼ぶことが出来ない。
声も顔もぼやけて、はっきりとは理解出来なかった。
でもよく知っている。
ずっと前から側にいたと断言出来る。
目が醒めるまで、ぼんやりと温かな夢の中で。
季節の花々が四季に関係なく咲き誇る場所で
花畑の真ん中にいる。現実のしがらみなど一切ない。
だた自分自身を包み込む、温かな世界がそこには広がる。
「ここは、どこですか」
「…」
彼は小さな声で何かを喋ったが、全く聞こえなかった。
「もう疲れた、ここにいたいです」
「…め」
また何かを喋ったが聞こえない。だが
彼は首を何度も横に振った。
「ダメだということですか、もう頑張れないです」
「…め」
また彼は首を何度も振る、ぼやけていても悲しげな表情をしているとわかった。
「人生の半分は辛いことしかないっていうのに、これから良いことがある保証はないのに。どう頑張れと」
皮肉のような言葉を言った、悲しむ彼に言うような言葉じゃないとわかっていても。止められなかった。
その時、初めて彼の声がはっきり聞こえた。
「保証はないですけど、もうすぐ会えます。だからその時までは待っていて」
彼はそう言った。
光が降り注ぎ、目が醒める。
どうやら日差しが温かかったものだから、眠ってしまったようだ。
ぼんやりまだ最後の言葉は確かに覚えていた。
3/20/2024, 3:12:43 PM