「君は美しいね」
虫けらみたいに踏み潰した彼女の残骸を摘み上げて、辛うじて原型を留めた彼女の顔面を此方に向けてから告げた。
彼女の虚ろな瞳には、もう何も映ってはいなかった。輝きを失ったそれは、どんな闇よりも黒かった。
「美しいよ、君は」
彼女の仲間は、もうとっくに撤退してしまった。此処には、私と彼女しかいない。受け取る先のない言葉が宙を泳いでいる。
私を倒そうとこの洞窟まで潜入して接近戦を始めたものの、あっという間に彼らはいなくなった。主戦力であった彼女の死によって、引かざるを得なくなった。
あぁ……。彼女の勇姿は、美しかった。
彼女の数十、いや、数百倍大きな私に怯むことなく真正面から挑んできたのだ。たった一本の剣だけで。何とも無謀な。しかし、その潔さに、私は感銘を受けた。
戦いの結果、彼女は無惨に散ったのだが。その骸さえ美しかった。
志高き勇敢な戦士の死。
さながら、空高く飛ぼうとやっと羽ばたいたその直後に羽をもがれて墜死した鳥のような。
残酷。
なんて、美しい。
私はそっと彼女を持ち上げ、洞窟の奥のコレクション棚まで運んだ。
丁寧に処理を施して、彼女の骸を透明な小箱に入れた。
それを同じ小箱を置く棚に並べる。
「君たちは美しいね」
数多の骸に向かって、優しい声をかける。
君は、こんな風に死んだね。
君の最期の言葉は、こうだった。
君は死の間際、泣いていたね。
彼女らに思い出を語りかける。言葉を返してはくれないけれど、私はこの行為に満足している。君たちの美しい死骸を、今日も私は愛でる。
美しいものは、私が大事に、大事にしてあげるからね。
1/16/2024, 1:55:25 PM