綾木

Open App

2024 5/13(月)

「早く大人になりたい」
と、心底願っていたのが今となっては馬鹿馬鹿しい。しかし、当時子供だった私の心の中には、確実にその願いが宿っていたのだから、なんとも言えない。

あの頃、大人は私たち子どもの見る世界とは随分違う世界に生きているように思えた。
欲しい物は自由に買えるし、大人の許可なんかなしに公園で遊べるし、大人に酷く怒られることも無い。いつか私が大人になったら、自分でお金を稼ぐようになって、高級車と立派なお家を買うんだと思っていたし、大人になったら恋愛をして結婚して、子供ができるのだと思っていた。
そしていつかは年老いて、幸せに死ぬのだとも思っていた。

しかし今はどうだ?
私は、あの頃思い描いていたような大人にはなれていない。
描いていた大人とは随分かけ離れた大人になってしまった。なんだ、こんなものか。
現実はゲームのように上手くはいかない。そんなネガティブなことを、会社終わりに寄った公園で考えていた。
「子供に戻りたい」そう静かにボソリと呟いた私の横で一人の少女が、私を羨ましそうな目で見ていた。

「おねえさんは、いいよね」
「……どうして?」
「もっと遊びたいのにね。帰らないとママに怒られちゃうから」
「……そっか」
少女の言葉に、私は何も答えることが出来なかった。ただ、ブランコから下りて、公園を走り去っていく後ろ姿の少女のランドセルが、妙に輝いて見えた。

子供は大人を羨ましく思い、大人は子供を羨ましく思う。

人はみな、自分の都合に良いように理想を描いて生きているのね。

#23 子供のままで

5/12/2024, 4:34:16 PM