「去年は『10年後からの手紙』とかいうお題とエンカウントした記憶があるわ……」
未来の記憶、きおく?記録じゃなくて?
某所在住物書きは何度もお題を見返して、まばたきして、そして首を傾けた。
ちょうど物書きは去年の暮れから、完全ファンタジーな異世界系の物語投稿を増やしていた。
アカシックレコードを内包した人間でも投下すれば、「未来の記録の記憶」を有するキャラクターのハナシでも書けるのだろう。
あるいは「全世界図書館」のような舞台は「すべての世界が記録されているから、未来の記憶も」のような展開を書けるかもしれない。
「なお実際に登場させて、その後の物語進行に支障が出るか出ないかよな」
物書きは少し考えた。 無難に「去年の記憶が未来の予測に繋がる」のパターンで攻めよう。
――――――
「前世」の記憶、あるいは未来の「記録」は、ネタとして聞いたことがある物書きです。
今回は「未来の記憶」だそうで。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。今回のお題回収役は、名前を藤森といいまして、雪降り花咲く田舎の出身。
在来種や非改良種を愛し、山野草や山菜も大好き。
自宅のアパート近くに稲荷神社がありまして、
そこがまさに、日本の花の宝庫となっておるので、
近頃はこの稲荷神社に入り浸り、顔を出し始めた「春の先触れ」をスマホで撮っておりました。
稲荷神社は森の中。
一部ぽっかり明るい日だまりの、キレイな庭がありまして、早春の花が顔を出しておるのでした。
「だいぶ、フクジュソウが増えてきた」
風そよぐ神社の庭に、ひざまずくような格好で、
花好きの藤森はスマホのシャッターを押します。
「こっちはセツブンソウか。美しい」
その日の強風は神社の森が抑えてくれるものの、
それでも白だの黄色だのの、キンポウゲ科の花びらはそよそよ、そよそよ。
風のイタズラが時折弱まる数秒一瞬を狙って、藤森はスマホを向け続けました。
ところで藤森が写真を撮っている花畑の向こうで、大人のオスのホンドギツネが、
酔っ払ったようにグデンと寝っ転がって、餅巾着などちゃむちゃむ食っておるようです。
そして藤森の頭の上では、その子供と思しき子狐が、藤森の髪をカジカジ噛んで遊んでおります。
なんでしょうね、「誰」でしょうね、
多分こちらは「前回投稿分の記憶」です。はい。
そろそろお題回収といきましょう。
「よし。今日は、こんなところか」
ひととおり花を撮り終えて、スマホの時間を確認して、藤森は自分がそろそろ帰らなければならないと気付きました。
リモートワークです。午後の部開始なのです。
「キクザキイチゲは、もう少し先かな」
去年の今頃の画像を辿って、藤森は「未来」の開花を予測します。
キクザキイチゲは東京の絶滅危惧種。
藤森の故郷に冬の終わりを知らせる花。
状況して十数年の藤森ですが、今でもそれの第一陣が顔を出すと、心が晴れ渡る心地になるのです。
「早起き組は来週か、再来週か……」
『去年は◯月◯日に咲いた』、『一昨年は◯月◯日だった』。それらの情報は今年にとって、
まさに、「未来の記憶」であったのでした。
2/13/2025, 3:55:51 AM