君の目を見つめると、思い出すことがたくさんあるんだ。
初めて話しかけられた日は桜が舞い散る入学式の日だったね。新入生? 私もなんだ。同じクラスだったね、よろしく!
そんなふうに私達はすぐに友達になった。
夏の暑い日に木陰で涼みながらアイスを食べた日は、いつもとは違って随分とだらしない目をしてた。私だから見られてもいいや、って言ってたよね。
どんな思いで私が聞いてたと思う?
もう知ってるよね?
冬になって、クリスマスに一緒に遊ばないかって誘ったとき、喜んでくれた君の目の輝きが忘れられない。
翌年も同じように誘ったら、断られたときの衝撃はもっと鮮明に覚えているよ。
好きな人ができたってきいて、初めてあなたは私から目を逸らしたよね。
ぎこちなく、それでも送り出した私は頑張ったと思うよ。
高校を過ぎて、大学を卒業して、めでたくあなたがゴールインした。
その翌年にあなたは暴漢に襲われて視力を失った。なんてひどいめぐり合わせだろう。
それでも旦那さんはあなたを支えて一緒にいるんだから、あなたの人を見る目は正しかったんだよ。
私だって支える、友達として精一杯支えるよ。
私もあなたが好きだから。
あなたはきっとわからないだろうけど、私の気持ちは今も変わらないから。
命があっただけまし、と周りは言うけれど、私にとってそれは想定内だった。
暴漢に襲われたあの日に、両目をえぐり取られただけで済んだということで、私の中には確信がある。
犯人は今も私の隣で甲斐甲斐しく私に世話を焼いてくれている親友で、私の目論見通りになったのだと。
彼女が私に執着しているのは知っていた、私から目を逸らされることをひどく嫌がることを。
私も同じだった。
彼女から目を逸らしたくなかった。
あなたの目にずっと見つめられていたかった、あなたの目をずっと見つめていたかった。それなのに、あろうことか私は他の男に目を奪われてしまったのだ。
自分が許せなかった。
こんな目は、もういらなかった。
最大限親友を揺さぶって、誰にも見つからない事に及べる場所に誘導した。
都合のいいことに夫は目が見えなくなった私を軽々しく捨てるような人物ではなかった。もっとも、捨てられても問題はなかったが。
そうなっても彼女がそばにいてくれるだけだ。
あの日彼女は私を襲い、私の目をえぐりとった。
それを確かめはしないけれど、きっと捨てずにいるはずだ。
だから今、私の目は彼女の目だけを見つめているんだろう。
私の言うことを聞かなくなった目を、取り戻してくれてありがとう。
4/6/2023, 10:44:54 AM