「太陽の下、という表現――あれは少し違うと思うね」
彼に言わせてみれば、「視点のスケールが小さすぎる」らしい。てんで意味が分からない、と俺は首を捻る。
「ご承知の通り、地球は太陽の周りを公転している。地球だけじゃない。太陽系の惑星はみんな平面の軌道を辿る」
ふと、小学生のとき理科の教科書に落書きした思い出が蘇った。太陽系の模式図に被せるようにして、下手くそなドーナツを描き込んだような気がする。
「僕はここに、『太陽の隣』という表現を提唱したい」
「……それを言ったら、太陽系みんな『隣』じゃないか」
そうだ、それでいいんだよ、と彼は勝手に深く頷いた。
なんだか一人で満足されたみたいで、少しむっとする。
「俺はやはり、『太陽の下』だと思う」
「ほう、聞こうじゃないか」
「スケールが小さいのは認めよう。でも俺たち人間には、そのちっぽけさを認めることこそ必要だとは思わないか」
うーむ実に面白い意見だ、と彼は唸る。聡明な彼に少し近付けたような気がして、我ながらちょっと誇らしい。
……が。それではダメなのだ。
「――さて。君なら俺の目的、分かるよね」
「……僕のサボりを白日の下に晒そうってのかい先生」
体調不良で遅刻すると彼に電話をもらったのだが、やけに周りが騒がしかったので駅前に行ってみれば、彼がファミレスに入店しようとしたところで現行犯逮捕した。
「白日の下、か。やはり俺たち人間は、どこまでも『太陽の下』のようだな」
大人気なくドヤ顔でふんぞり返る俺に、彼は苦虫を噛み潰したような顔で黙り込む。
「――そうだ、一応具合悪そうにはしておけよ」
ニシシと笑いながら、俺は彼の頭にポンと手を置いた。さすがの彼も想定外だったようで、目を丸くしている。
校門前、もうすぐ二限が始まる時刻か。
太陽の下で、二人で顔を見合せ密約を交わした。
2024/11/25【太陽の下で】
11/26/2024, 12:19:46 AM