いしか

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微熱のような感覚って、あると思う?

まぁ、それが実際の微熱だったらそれが微熱の感覚なのかもしれないけれど、私には、微熱の感覚というのはいまいち掴めずにいた。

微熱になったことはあるけれど、その時の自分の感覚は、もうなくなってしまっていて、記憶にもないのだ。


「……恋って、微熱みたいな感覚になるみたいですよね?」

私に話しかけてきたのは、同じ部署の後輩、相良 康史(さがら やすし)

目立つ存在ではないけれど、卒なく仕事をこなし、女子にモテる存在ではある。

「……どうしてそんな事を私に聞くの?」

「佐伯先輩なら、知ってるかな?って思っただけです」

「あんたにとって、私ってどんな女に見えてるの?」

「う〜ん。大人な恋愛をしてそうです」

彼と私は、こうして何気ない会話をほぼ毎日する仲でもある。

そして、後輩だけれど、私の片思いの相手でもある。

もちろん、一方通行だ。

「あのね、言っとくけど、大人な恋愛って呼べるもの、私…してないと思う」

「えっ?!そうなんですか!!

………良かった」

は?良かっただと……?

「ちょっと、何が良かったなのよ?」

「えっ!!あ、口に出てました」

「思いっきり、何なのよもう……!」

その時、私はひらめいた。
そして、すぐに実行した。

「……ねえ、相良……」

「はい、何ですか?」

そういった相良の目の前へ、
私はデスクの椅子から移動する。

もう時刻は夜の8時。
私達以外は退勤している。

「その大人な恋と、微熱みたいな感覚…
あなたが私に教えてくれても良いんだよ?」

私はほんの悪戯のつもりだった。
相良を困らせたかっただけだ。

なのに…………

「………良いですよ」

そういうと、相良は私の両手を優しく持って、自分の腰に回し、その手を離すことなけもった。

私の顔は相良の胸の当たりでぴったりと貼り付き、顔をあげれば、相良の顔が目の前だ。

「………俺が教えてあげましょうか?先輩」

今まで見たことのなかった私の好きな人の少し色っぽい悪戯な表情。

この一気に熱を帯びた感覚が微熱とにているなら、私は今、体感したことになる。

…………やられた………。

私はこの時、完全に落ちた。

相良康史という、一人の男に。

11/27/2023, 5:55:28 AM