帰燕[Kien]

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作品No.149【2024/08/27 テーマ:雨に佇む】

※半角丸括弧内はルビです。


 突然の雨に、那央羽(なおは)は立ち尽くしていた。
 傘はない。合羽はない。それなのに、濡れて帰るのはしたくない。となれば、雨が止むか、小降りになるのを、こうして待つしかないのだ。
(漫画とかアニメなら、誰かが傘を貸してくれたり、「一緒に入る?」なんて声をかけてくれたりするんだろうけど)
 ここは、現実だ。そして、那央羽は、自分がそれほど庇護欲をかきたてられる存在だとは思えなかった。女子にしては高い身長も、かわいいとは思えない顔も——那央羽の外見は、他人に守りたいと思わせられるものではなかったのだ。
「仕方、ないか」
 呟いて、那央羽は空を見上げる。
 雨は止むことなく落ち続けていた。

8/27/2024, 2:13:21 PM