あぁ、もう、どうして私だけ、私ばかり。
カタカタカタとリズミカルに叩かれるキーボードの合間に、女性は理不尽を嘆く。
終わらない仕事。積み重なるストレス。
職場の同僚はせかせか動き回る彼女など見て見ぬふりで、"自分に厄が回ってこなくて良かった"と無理しないでねと励ました顔の裏側で笑っているのだ。
こんなに頑張っても給料は上がらないし、残業手当てだって雀の涙。
こちらの休みは満足に取れないくせして、上司やそれに気に入られてる連中は平気で休みを取っていく。
あぁ、どうして、自分ばかりが損をする。
私だけ、私ばかり。
けど、嫌だ嫌だと駄々をこねたところで世界は変わらない。
そんなのは理解していて、だからこそやるせないのだ。
誰かが変えてくれやしないだろうか。
例えばあの仕事が出来る彼とか、要領のいい彼女とか。
私なんかより出来る人間が頑張ってくれればいいのに。
あぁ、そんな事を言ったって仕事は終わらないけれど。
「はぁ、どうして私ばかりがこんな目に」
長い長いため息でキーボードの埃を散らしていた彼女は知らない。
彼女のいう仕事の出来るエリートの彼が、要領のいい彼女が…同じ言葉を吐いていたことを。
あぁ、どうして私が、私ばかり。
会社の外でも同じこと。
周囲に馴染めぬ子供が、育児に翻弄される母親が、家庭内で村八分にされてる父親が、フラれた女が、ギャンブルに失敗した男が、病に伏した誰かが、予期せぬ事故にあった誰かが…同じ思いを口にする。
あぁ、どうして私が、私ばかり。
結局のところこの世界は、そんな思いの集合体なのだ。
7/19/2023, 1:11:05 AM