時計の針。
時計はいつも一定で、簡潔で、完璧で。その音を刻む針は、とても魅力的だった。
僕は昔から嫌いだった。僕だけの部屋で、僕の意志とは別に、ただただ音を鳴らす時計が、鬱陶しかった。僕の世界が静けさに包まれれば包まれる程、その秒針の音は大きくなり、醜くも滑稽にも意地汚く鳴り続ける。
私は「大きな古時計」という曲が、大好きだった。母の拙い音程と少しくぐもったあの声を思いだすと、今でも懐かしくなる。沢山の人が大切に聴き継いできた、歌い継いできた音楽の中でも、私だけの子守唄。
チクタク チクタク。
日々の何でもないモノに、密かに思い出が隠れている。ほんの少しの、記憶でも、思い出と、懐かしそうに顔を緩める人を見るのは、いっとうの幸せにも感じられる。
常に進む事が時には、大きな負担や厄介、切迫や落胆を生む。
だけど、僕が。私が止まってしまった今、時計の示す時間だけは、どの事象にも貪欲に精確に確実に刑の執行を告げる。
正直、ありがたい。
だって停滞から抜け出すなんて、一番怖いんだから。
お気に入りの時計で、文字盤をデコって、針を尖らせよう。丁寧に、研いで、飾って、手に持って。
心のどこかに、吊るして魅せよう。
2/6/2026, 11:31:34 AM