ヒロ

Open App

春の象徴の一つとして。
蝶がヒラヒラと舞う様を見て、素直に和める幼い時期も確かにあったのだが。
中学の頃だったろうか。
クラスメイトが放った一言のインパクトが尾を引いて。
それ以来蝶を見かけても、単純に春の訪れだと喜べなくなっている節がある。

「小さいときはさ、蝶だ! 可愛い! て好きだったんだけど」
と、前置きの上で彼女は続けた。
「理科の教材のさ、便覧で見たんだよね。蝶の拡大写真」
「頭とか、顔みたいなところとか。あれ見たらさあ。蝶見ても、もうモスラにしか思えなくって。駄目、もう無理だわ」

もちろん、モスラは蛾がモチーフの怪獣で。蝶とは違うものなのだけれど。
彼女が似ていると言うその言い分も分かるけれども。
おかげでこのかた。蝶が飛んでいる様を見れば、彼女の言葉が呪いのように蘇り。
和む時間は一瞬で、浮わついた気持ちがフリーズする。
凍りついたその後には、モスラやら件の拡大写真が頭を過ってしまい、微笑ましくきゃっきゃと騒げなくなってしまったのが残念だ。
十年以上経った今でさえ。未だにしつこく思い出してしまう辺り、自分には無かった着眼点が衝撃的だったと伺える。
そもそもの言い出しっぺの彼女自身は、そんな発言などもう忘れてしまっているのだろうから悔しいな。
まあ、確かに。
花と同列に並べて愛でる言葉もあるけれど、所詮は蝶とて虫なので。
改めて画像検索してみても、蝶の頭はやっぱりモスラ顔で間違いなく。
これは一生忘れなさそうだ。


(2024/05/10 title:033 モンシロチョウ)

5/10/2024, 12:26:14 PM