#20歳
二十歳になるというその時、僕は悪い友人から分けてもらった紙タバコと、父の棚からくすねて来たウイスキーのボトルを机の上に置き、0時が超えるのを待っていた。
家族はとうに眠りについていて、時刻は23時45分。しんと静まり返る住宅街で、僕だけが明日という日を望んでいるような気がした。
成人年齢が引き下げられた2022年以降、僕ら18歳以上20歳未満の「半端成人」にとって、二十歳になるという今日は特別な日である。
選挙権とか、パスポートが10年取れるとか、携帯の契約が自分だけで出来るとか、そんなものじゃ何にも変わらない。
お酒を飲んで今日も嫌なことがあったなと愚痴るとか、沈黙が気まずくなって思わずタバコを口にするとか、そういうのが僕の思う成人だ。
いや、それだけじゃ足りないな。そうしたことを特別だと思わないのが成人だと思う。
僕はこれからその一歩を踏み出すんだ。スマホを見る。あと10分。焦る必要はない。ゲームでもして時間を潰そう。
成人は逃げないんだ。むしろ近づいている。なにもしなくても僕は「半端じゃない」成人になれるんだ。
ゲームを起動する。よくある脱出ゲームというやつだ。棚の隙間からアイテムなどを見つけ出し、組み合わせ、時には謎を解きながら部屋の鍵を探す。とてもシンプルだ。シンプル故にのめり込みやすい。さしずめゲームの主人公は今の自分のようだ。半端成人という部屋から出て、成人という広い世界に旅立つのだ。
… … … ピピピ ピピピ
朝だった。気がつくとベッドの上でスマホを持ったまま僕は寝落ちしていた。
いつもの時間に鳴った目覚まし時計を止める。回らない頭で今日は何曜日だったか考えた。
確か今日は日曜だ。特に予定はなかった…
はっ!
僕は思い出す。僕は成人になったのだ!なんでも出来る、なんでも許される年齢だ。
そう、準備していたアレをーー。
机の上に目を向けると、タバコもウイスキーも姿を消していた。代わりに一枚の紙が置かれている。
『二十歳のお誕生日おめでとう、光樹』
『ウイスキーは戻しとくわね。タバコは成人になっても止めておきなさい。身体壊すわよ』
ちゅんちゅんと雀が鳴いているのが聞こえる。充電が20%になったスマホを持って僕は机の前に突っ伏した。
1/11/2024, 1:52:57 AM