アシロ

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 最初は、とっても豪華で大きな船だった。小さな自分の体には勿体ないぐらい、無限にも思えるキャパシティを持っていた。船体にもオールにも船首にも内装にも、何処を見てもキラキラと輝く煌びやかな宝石がふんだんに嵌め込まれていて、見渡す限り眩しく光り輝くその船に乗って、同じように眩くチカチカとした光に溢れた煌々と照らされる大空を、何の迷いも何の不安もなく、幼い自分は自由自在に舵を取り、無邪気に笑いながらその航海を心底楽しんでいた。いつまでもずっと、永遠に、その日々が続いていくのだと信じて疑っていなかった。
 幼い自分は、幼いが故に未だ知らなかったのだ。航海には嵐という恐怖が潜んでいることを。痛いほど強く体に打ちつける雨粒、全てを壊さんとするかのように理不尽に襲いかかってくる暴風。それまで穏やかだった空が突然顔色を変え、怒りの感情を表すかのような稲妻を空中に走らせ轟音を轟かせる。そんな日々が幾度となく、数え切れないほど発生し、そしてその度に、あんなにも豪華だった船は宝石が剥がれ落ち、船体は傷を負い、徐々に徐々に磨り減るかの如く、その巨体と煌めきは小さく萎んでいった。
 大きくなったこの体には小さく感じられるボロボロの船。嘗てはたくさんの夢と希望に満ち溢れていたはずのそれは、今ではもう過去の面影など微塵もなく、航海を進めれば進めるほどに比例して、傷付き涙に濡れ痛みを味わうことで、光は明度を失っていき、宝石の輝きはとうに色褪せた。
 ──後悔ばかりの航海だった、と。
 あの日の幼き自分へ告げることが出来たなら、こんな夢も希望もない未来に舵を取ることなどなかったのだろうか。
 そんな後悔がまた一つ生まれ。それでもこの航海はもはや自動操縦で続いていく。この船が崩壊し、機能を停止させ、朽ち果てるまで。

5/11/2025, 1:51:47 PM