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学年合唱
アルトパートだった私は
男声アルトを歌う男子のすぐ隣の立ち位置だった

初めての合同練習の日
すぐ隣に立っていた男子は隣のクラスの
まだ話したことのないバスケ部のイケメン君だった

その日は何を話すこともなく終わった

2回目の合同練習の日
歌と歌の合間のざわつきの中、イケメン君の方から

声めっちゃ出るね、と突然言われた

歌うことが好きな私は合唱でものびのびと歌っていた
え、あ...うん頑張ってる、とドキドキしながら焦って答えると

俺も頑張んなきゃー、と
指揮者の先生の方を向き直して言った
うん、がんばろ...っ!
ドキドキが収まらずそれがバレないようにと意識して小声になってしまった
聞こえていたのかは分からない

その日から、合同練習以外でも
廊下ですれ違うと言葉こそ交わさないけれど
お互いに目が合って「...っす」という感じで
周りが気づかないくらい小さな会釈をし合うようになった

合同練習をする度に、
歌の合間で課題の話や
今度のレクリエーションの話、
合唱を披露する本番の日の話...

盛り上がることもないけど
たぶんお互いこの時間をちょっとだけ楽しみにしていた気がする

そんなふうに、ぽつぽつと話すようにもなった

そして、日常と練習を重ね、
学年合唱を披露した本番の日

歌い終わり、合唱隊形の外側の人からステージを降り始めた
拍手とざわざわとした空気で包まれた体育館

そのときに、トントン、と肩を小さく叩かれた

振り向くと隣のイケメン君が少し笑いながら
お疲れ様っした、と右の手のひらを私に見せてきた

あっ、お、お疲れ様っした、
目の前のことを滞りなく処理することに必死で、
なのに言葉には詰まりハイタッチもちょっとだけズレた

彼が見せてきた手のひらに
小さくハイタッチした私の右の手のひらが汗ばんでしまっていたことに
直後気付いて恥ずかしくなった

そしてまもなく私と彼は
それぞれ反対方向に向かって歩き出し、ステージから降りた

練習を重ねてきた合唱曲【大切なもの】が無事に成功して安心していたはずなのに
ドキドキが収まらない

私はこの文字並びと合唱曲を見るといつも必ず
この“青春”を思い出す

4/2/2024, 12:46:57 PM