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早希子には星空を見上げると必ず思い出す出来事がある


その頃はまだ恋人であった達彦と、出会ってから3回目の夏を迎えようとしていたある日
「ねぇ、今度の七夕の日にプラネタに行かない?」
と、普段空を見上げることもあまりしないような達彦が珍しいことを言ってきた
(へぇ〜、そんなにロマンチックなところもあるんだ)
と、達彦の知らなかった一面を見た様な気がして早希子はその誘いがとても嬉しかった


七夕のプラネタリウムは予想通り、カップル客で一杯だった
「何だか私達も普通のカップルって感じね!」
と、普通のカップルが当たり前にするようなデートの経験のなかった早希子ははしゃいだ気分で達彦の腕に絡みついたが、何故が達彦はソワソワと心はここに無いように思えた

「柄にも無いことするから緊張するのよ」
と落ち着かない様子の達彦を茶化した


プラネタリウムなんて子供の時の校外学習で見た以来だったし、最近の進化したプラネタリウムの凄さへの驚きと、本当にどこかの旅先で夜空を見上げているような錯覚に感極まり、七夕の日に達彦とこの星空を見ることが出来たことに素直に感謝した


星空の説明のアナウンスが終了すると、今まで聴こえていた幻想的な音楽がパタリと止み、続いて『星に願いを』が流れ始め、会場は一気にロマンチックなムードに包まれた
これが、七夕の日の特別な演出なのかとそのムードに酔いしれているとまたアナウンスが流れた

「七夕の星空の夕べへようこそお越しくださいました
今夜の特別キャンペーンに見事当選された方の『星空のメッセージ』をご覧いただきます」
と、会場は一瞬真っ暗になり、次の瞬間さっきまで見上げていた「夜空」一面に星屑で描かれたメッセージが映し出された
「I LOVE YOU SAKIKO ♥」

早希子はあまりの驚きに、息が止まりそうになった
慌ててとなりの達彦を見ると、照れ臭そうに頷いた

早希子に内緒でこのキャンペーンに応募していたのだ
まさか、こんなサプライズがあるとは!
達彦自身実現するとは思ってもみなかったであろう

早希子はあまりの感動に言葉すら発することも出来ず、次から次に溢れ出る涙を拭うことさえ忘れていた
ただ、メッセージの最後に光っていたハートマーク♥のピンク色の可愛らしさが目に焼き付いた


それから半年後、早希子は達彦の姓になった

二人の穏やかな日常が5年経った頃、達彦が体調を崩した
悪性腫瘍が見つかったのだ
想像以上の早さで病状は進行した

あれこれ手を尽くしたが、今の医学ではもはやどうにもならない状態になっていた

そんな絶望と痛みに耐えていたある日、達彦はかすれる声でゆっくりと早希子に話しかけた
「あのプラネタリウムを覚えている?
僕さぁ、死んだらあのメッセージの最後に光っていた可愛いハートの星になりたいなぁ」

それが、早希子が聞いた達彦の最後の声になった



達彦が本当の星になってしまってから2度目の七夕が来る

今年こそ星空が見られるだろうか…

もし、星空が見られなかったとしても、私の心にはいつも♥の形の星が輝いている




『星空』

7/6/2024, 5:13:43 AM