星の海を二匹の魚が優雅に、雄大に泳いでいる。
尾が紐でキツく結ばれている二匹は、しかしそれをものともせずになんの憚りもなく星々の合間を縫っていく。
片方は愛らしい少女の上半身を持ち下半身の尾鰭が星の海に反射してキラキラと輝いている。その尾から伸びた紐は少女に比べて随分と大きな魚体に結ばれており、少女を庇うようにその巨体をうねらせながら泳いでいる。
星の位置が変わる。
それは少しずつではあるが、確実に、幾度も行われてきた事でもある。
少女の愛らしい声色が太陽に届く。歌っているかのような誘うようなその甘い音に、ついつい足を止めてしまいそうになる。
しかし、太陽は留まる事を許されない。全てを遍く照らし昼には地上の全てを見守り、夜には生者を守ってやらねばならない。
あの愛らしい魚の女神のことも見守っていた。
湖に落ちてしまった時はどうしたものかと思ったが、あの雄大な魚が彼女を助けたのを見届けて安堵したのはいったい何世紀前だっただろうか。
地上でいう4月には、太陽は魚の女神たちの側から離れてしまう。
あの愛らしい声色は別れの歌か、それとも再会を願う歌か。
星々の間を舞うように泳ぐ姿はそれは見事なものだった。仲の良い女神と魚の姿はとても微笑ましいものだった。
しかし、四月の魚を見ることは叶わない。
太陽は黄道を進む。
“エイプリルフール”
4/1/2024, 3:19:43 PM