どこかの誰かの手記

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蝶よ花よ

私は綺麗。私はかわいい。
とある国のとある貴族の娘に生まれた私。誰がみても見目麗しく、家族も使用人もみんながちやほやしてくれた。毎日のように美味しい料理を食べて、毎日たくさん甘やかしてもらった。

お勉強は大変だけど、頑張ったらたくさん褒めてもらえる。週末は大好きなお菓子がおやつに出てくるから、それまで頑張るってやる気が出る。お母さまは私が天才だって言ってくれる。ふふ、嬉しいな。

でも、私は街に出たことがない。この国の貴族と庶民は仲が悪いって使用人が言ってた。使用人も庶民だけど私に優しいのに、どうして仲が悪いんだろう。いつか、庶民の人達みんなに会えたらいいな。

今日は隣の国にお父さまとお母さまと一緒に行くことになってる。外交が大事らしい。昨日歴史のお勉強をして、今は各国で調停を結んでいるから大きな戦いは起こっていない。それでも、争いはいつの時代でも終わらないんだね。

今日は乗馬の稽古がある予定だったんだけど雨が降ったから中止になった。このくらいの雨ならお父さまたちはいつも乗っているのに。心配してくれているのは嬉しいけど過保護だな。
でも、なんだか今日は、街のほうから音がする。お祭りでもしているのかな。

最近、使用人たちが避けている気がする。私、というより私たち家族のこと、なのかな。みんな悲しそうな顔をしてる。私ができることはないのかな。

夜、目が覚めた。なんだか、あつい。それに、明るい。夜なのに明るいなんてはじめて。明るいのに静か。おかしい。どうして。何があったの。

おかあさまの、ひめいがきこえた。

けんをふりおろすおと。

けんのまじわるおとがきこえる。

おとうさま?

あかいなにかがおとうさまから

しらないひとたちがいえにいる

でも、なんにんかはしっているかお

しようにん

ああ、そうか。


「あなたたちが招いたのね。」

蝶よ花よと育てられた私は知らなかった。美味しい料理を食べられたのは庶民に重税を課していたから。

蝶よ花よと育てられた私は知らなかった。街に出られなかったのは庶民が私たち貴族を悪んでいたから。

蝶よ花よと育てられた私は知らなかった。終わらない争いのタネは私たち貴族だったこと。

蝶よ花よと育てられた私は知らなかった。あの日はお父さまが反乱を起こそうとした庶民と罪のない家族を殺していたこと。

何も、知らなかった。使用人が怯えていた事も、私が無力なことも。

何も知らないオジョウサマ。かわいいかわいい私。せめて、最期まで綺麗なままで。



あら、知っている顔が歪んでいる。
ふふ、そんな顔をしてもらえるなら、生まれてきて良かった、のかも。

なんてね___

8/8/2023, 1:57:08 PM