未来莉つき

Open App

〔ゆずの香り〕

柚木(ゆず)、という木がある。その木は、私にとって一番大事で、大切なもの。
んーと、経緯と理由を説明したいな…。まず、私の好きな人について話すわね。

ーーーーーーーーーーーーー

私の好きな人は、柚希(ゆずき)という男の子で、一応幼稚園からの幼なじみなの。
柚希だから、私はよく『ゆず』と呼んでいたわ。本人も結構嬉しそうだったしね。今考えると、自分の名前の由来を知っていたからだったかもしれないと思う。
ゆずの誕生日は5月25日。この日の誕生花は柚木。
柚木の花言葉は「健康美」「汚れなき人」「恋のため息」。暗い意味は無く、どれも良い花言葉。
ゆずはこの花言葉の通り、純粋で一途、明るく人気者だった。
ゆずのお母さんは、誕生花からゆずの名前を付けたって言ってた。花言葉まで考えてたかは分からないけど、そうであってほしいな、と思う。
ゆずに聞いても、何もつけてないって言ってたけど、ゆずが通った後には、ふわっと柚木の良い香りがする。
私は、その香りがすごく好きだった。
けど、そんな楽しい生活にも終わりは必ず来るもので、小学校6年生の2学期には引っ越す事が決まった。
引っ越す先は、すごく遠い場所だった。私は直感で、『あぁ、私はもうゆずに会っちゃいけないんだ』と思った。
その時はただの直感でしかなかったけど、今になると神様か誰かが良心で教えてくれたのかな、と思わなくもない。
別れる時、私はゆずに言ってしまった。
『ねぇゆず、私ゆずが好きよ。ずっと好き。…私の事、忘れないで。』
なんだか恥ずかしくて、悔しくて、答えは分かってるから悲しくて。思わず言いながらぼろぼろと泣いてしまった。
でもやっぱりゆずは優しいから、
『今は付き合えない。でも、大人になってもしもどこかで会ったら、それとその時もまだ僕の事が好きだったら、絶対に付き合うよ。あと、『忘れないで』なんて言わなくても、絶対に忘れないよ。だって…』
しばらくもじもじとしていたけど、ゆっくり私に近づいてきて、耳元で『…大好き』なんて言葉をボソッと言った。
思わず『え、?』なんて言ってしまったけど、ゆずの顔が少しずつ赤くなってるのを見ると言葉に信憑性が出てきて、こっちまでとっても恥ずかしくなった。
その後は、すぐ2人で『またね』って言って別れた。

ーーーーーーーーーーーーー

あれから8年。
私は大人になって、会社員になった。
私は今でもゆずが好き。ゆずのおかげで柚木も好きになった。
今まで1度も、ゆずを見かけた事は無い。

私は道を歩いていた。ただ、それだけだった。
ふと、柚木の香りがした気がした。
だから、振り返ってみたの。
…でもやっぱり、そこにはゆずは、いなかった。

12/22/2024, 8:25:46 PM