薄墨

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晴れ渡った真っ青な空から、雨がぽとぽとと落ちていた。
「きつねのよめいり」私は口の中でつぶやいた。

窓の外は、雨だけがぽとぽとと音を立てていた。
こういう天気の時に、隣の家から顔を出して、うれしそうに話しかけてくれる幼馴染の声は、聞こえなかった。

雨がぽとぽと落ちていた。

私と幼馴染は、すごく仲が良かった。
幼稚園の時も、小学校の時も、中学の時も、高校に入ってからも。
私たちはいつも一緒だった。

小柄で、本や演劇を好いていた私の幼馴染は、とても優しくて、丁寧な性格だった。
何に対しても一生懸命で、諦めが悪くて、私は時々、「もういいじゃん」と不平を言った。
心配性で、楽観的で雑な私について、いつも気を張り巡らせて、危険を警戒していた。
火が苦手で、私が火の近くにいると、よく取り乱していた。

私たちは、生まれた時からずっと仲良しで、友達で、お互いが大切だった。

お家もお隣で、みんなに内緒でよくお話をした。
紙飛行機を飛ばしっこして遊んで、一緒に本を読んでごっこ遊びをして、一緒に駄菓子を食べた。
大きくなってからは、毎年一緒にお祭りにもいった。
テスト勉強を一緒にして、帰りには、待ち合わせて一緒に帰った。

私の、これまでの、たくさんの想い出は、幼馴染と共にあった。
幼馴染が、幼馴染とのたくさんの想い出が、私を作っているみたいだった。
私は幼馴染が大好きで、大切で、幸せになって欲しかった。

幼馴染が病院に運ばれたのは、一年前の天気雨の日だった。きつねのよめいり。
あの日、幼馴染は窓を開けて、「天気雨だ!きつねのよめいりだね」って笑って、
私は今日も話しかけてくれたのが嬉しくて、頷いて、
「じゃあ、また昼にさ、きつねのよめいり見よう」と幼馴染は笑って…

それから30分後、お隣に救急車がやってきた。
幼馴染は、お家で急に倒れたらしい。

幼馴染はそれから、帰って来なかった。
二度と帰れないところへ行ってしまった。私を置いて。

私と、たくさんの、本当に一人じゃ持ちきれないほどたくさんの想い出を置いて。

私は独りぼっちになってしまった。

私は雨が好きで、幼馴染は晴れの空を見上げるのが好きだった。
だから私たちは、一番天気雨が好きだった。
お互いに好きな天気が混じり合った空だったから。
この天気の時は、一緒に持ち合わせた、たくさんの想い出が、思い出せる天気だったから。

今日は、きつねのよめいり。天気雨だった。
たくさんの想い出が、天気雨に乗って、私のあたりを立ち込めていた。

幼馴染はもう帰ってこない。

幼馴染にはもう会えない。
あの毎日はもう帰ってこないのだ。

雨だけが降っていた。
真っ青な空から、ぽとぽとと。

たくさんの想い出が、支えを持たない私には、すごく重たかった。

11/18/2024, 12:40:30 PM