駆け落ちをしよう。私達が許されることはないんだ。
きっと父君はたくさん人を寄越すだろう。私はきっと振り切ってみせる。
君は小柄だから、騒ぎに紛れて街を出ると良い。
海に行こう。海風に揺られながら、そこで一生を過ごすんだ。
大丈夫。もしお互いが分からなくなっても、きっと出会えるように約束をしよう。
“会いたいと海に向かって欲しい”
それだけだと不安?
ふふ、それなら
“木に名前を書いて見せて欲しい”
これなら、声の出せない君でも出来るだろう?
炭がなければ?削る刃がなければ?
うーん…
うん?血で書く?
君の美しい手が傷つくのは嫌だけれど、会えないのはもっと嫌だものね。その傷でさえ、愛の証だ。
じゃあ、きっと会いにいくよ。海辺で。
あの約束からどれだけ経ったのだろう。どれだけ歩いたのだろう。果てのない独り旅をしているようだ。
けれど、きっと。きっと出会える。
約束したじゃないか。
とれだけ経っても私は彼女を迎えに行くよ。
それにしても、今日の夕日は一等に美しい。彼女と見たかったものだ。上から差し迫る夜の闇が、沈む前の陽をより輝かせて見える。
知らずに入っていたのか、潮が満ちてきたのか。海水が疲れきった足に心地いい。ここは穏やかだ。ここで彼女を待つのも良いのではないだろうか。あぁ、足が鉛のように重たい。
途端に、背中が燃えるように熱くなった。
そこからは、身体がなぜだか浮くように軽い。頭にも靄がかかっているみたいなのに、ただ、彼女を迎えに行くことだけは覚えている。彼女との、約束も。
もし、
あなたが私のイトシイ人かい?
それとも君?
木片に、血の願い、海辺、でも君の顔だけが思い出せない。でも、いつまでも待つから…
長い長い旅路の果てに、今君に会いに行くよ。
1/31/2024, 6:15:27 PM