—平和の代償—
現在、帝国で戦争が起きている。
隣国が攻め込んできてから、一月と少しが経過した。
「おっかちゃん、お腹すいたよぉ」
「大丈夫よ、きっともう少しだから」
子をあやす母親。
「いつになったら帰れるの?」
戦況を嘆く女子。ひたすら泣き喚く赤ん坊。
集団疎開が始まって二週間。
この村は、早くも限界を迎えた人々で溢れかえっている。
「あっ、フリルさんが帰ってきた!」
そんな重苦しい空間も、姉さんがやってくるとたちまち明るくなる。
十六歳の僕の姉。
長くてまっすぐに伸びた金色の髪が綺麗だ。帝国ではモデルをやっていた。
「みんなお腹が空いているでしょう? ほら、お食べなさい」
たくさんのパンが詰められた袋。
「一人一つよ。全員分あるから、仲良くしなさいね」
姉さんは笑顔をみせる。
そして、みんながパンを手にすると空気は和らいだ。
「姉さん、どこからあのパンを持ってきたの?」
僕がそう訊くと、目を逸らされた。
「……捨てられてたの。あんたもパンもらったんなら、お食べなさい」
「うん。わかった」
僕もパンを頬張る。柔らかくて美味しい。とても捨てられたパンには思えなかった。
その夜、僕は夜中に目を覚ました。
僕の背中の後ろには、丸くなって震えて泣いている姉さんがいた。
姉さんは、どうやってパンを持ってきたんだろう。いくら考えてもわからなかった。
お題:愛と平和
3/10/2026, 1:50:09 PM