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「友情」

不器用な私が組紐に挑戦するなんて思いもよらなかったけど、この講座を続けて受ければ帯締めを作れると聞き、頑張って通っている。ある帯に合わせたい帯締めがどうしても見つからなくて、ないなら作っちゃえと飛び込んだが、初日に後悔した。

それでも小さな輪っかから始まって、キーホルダーなど段階を踏んで簡単な四つ組の帯締めは完成した。今日は本丸の八つ組の帯締めに挑戦だ。

帯を持参してそれに合う糸を選ぶところからだ。青地にパステル調の色で花が染め抜かれている。春にふさわしい色だ。花の中から四色を選んで組んでいく。四つ組とは桁違いの難しさだ。

目の前の次の手に集中して他のことは何も考えない。それでも気がつくと間違えている。先生に指摘され間違えたところまで糸を戻す。台の下に次第に長く紐が組まれていくさまが不思議だ。

「はい、ではこれから昼休憩です」

今日の参加者は5名ほど。そのうちの1人が食事に誘ってくれた。

「ここのお蕎麦、おいしいんですよ」

江戸時代の町が再現され、伝統的手仕事などを体験できる博物館。ここで供される蕎麦はここで栽培された蕎麦から作られるそうだ。いつもは近くのコンビニで買って済ませていたが、帯締めが完成すると来なくなるからちょうどいい。これも体験だ。

ぎしぎしと音を立てる急な階段を上り、セルフサービスのお茶を入れる。自己紹介や組紐大変だよねなんてことを話していたら、時間はすぐに過ぎていく。噂に違わぬおいしい蕎麦で、ここでは昔ながらの農法で育てた野菜や米の収穫体験もできるそうだ。

組紐の他に陶芸、機織り、竹細工、染め物などを体験済みで、お子さんと一緒に鍛冶屋の体験をしてペーパーナイフを作ったとか。ここでの体験は奥が深い。組紐で帯締めが作れると有頂天になっている場合ではない。

「ごちそうさまでした」

本当においしかった。よし、午後からも頑張ろう。

「よかったら、完成した帯締めを締めて一緒にお出かけしない?」

夫の転勤についてきた見知らぬ土地で、いつも一人だった。まだ友だちとは言えないけど、これからなれるかな?いくつになっても友情は育めるよね。

7/25/2024, 1:57:28 AM