「恋の病とはよく言ったもんだ」
赤面して俯く私に対して君は酷くぶっきらぼうにそう言ってのけた。
大して興味も無さそうに。
私にとって覚悟に近かったのに、あっさりとそう言われてあからさまに落ち込んでしまう。
貴方を目で追いかけるようになって、性格はあまり良くなかったけど輝いて見えてしまったのだから恋は盲目なんて考えた人は凄いと思う。
ごめんねと無理矢理笑う、声はきっと震えていた。
そんな私の言葉に無言で腕を引っ張り引き寄せる。
意地悪なその笑顔は私の好きだったもので。
きっと揶揄われ続けるんだ、弄られてしまうんだと目を瞑る。
瞼に感じた優しい温もりに、彼の香りに、一瞬で脳が覚醒する。
「恋の病なんて、そんな可愛いもん俺には似合わないだろ」
瞼に、額に、頬に……柔い感触がじわりと広がる。
揶揄われてるのか分からない。
顔を上げると夕陽灯に照らされて綺麗な顔が視界に入ってくる。
胸が、痛い。
痛いよ。
どうしようもなく、やっぱりどうしようもなく君が好きだ。
頬を撫でる手は優しすぎて辛い。
「俺のビョーキも、お前のビョーキも、一緒に治していくか」
無邪気に見せた照れ隠しの笑顔は、どんな表情よりも好きで締め付けられる痛みに胸を抑えた。
再度瞳を閉じて彼を待つとその痛みはすうっと引いていく。
私と君の処方箋はここに存在する。
キラキラ輝くような恋なんかじゃない、誰かの幸せの裏にひっそりと潜むような目立つ事の無い恋だけれど。
貴方のその優しげな瞳を独り占め出来るのだと思うと、我儘な高鳴りはやめられない。
隠れて再び重なった唇はお互いを溶かすような、そんな淡くて甘いものでした。
3/19/2024, 5:51:28 PM