お題『僕と一緒に』
俺は今、舞踏会に来ている。こういうのは柄じゃないのに周りが『パートナーを見つけてきな』と強く推してきて渋々といったところ。
さっきからスカートを何度も踏みつけ、その度にこけそうになる。その度に人目が集まってきてムカついて……あー、早く終わんねーかなー。
そんなことを思いながらビュッフェ形式の食事をつまんだ。あまりの美味さに驚いた。舞踏会は終わってほしいけど、この飯だけは食い続けたい!
片っ端から食っているとひょこひょこと少年……いや、もっと小さいな、ボウズがやって来た。
「あの、僕と一緒に食べてくれませんか?」
妙なことを言うな。
「お料理が上手く取れなくて」
なるほど。テーブルが高いからな。
「食えねーもんがあったら今のうちに言いな」
ぱあぁ、と顔色を明るくするボウズを見ていると悪い気がしない。
それからはふたりで並んで壁際で飲み食いした。
数日後。舞踏会を主催した屋敷から使いが来た。
「当屋敷の跡継ぎ君があなたをパートナーとして迎えたいと仰っています。どうか今一度屋敷までお越し願えませんか」
イエス・ノーの選択肢をくれない口調に内心『うげ』と思いつつ、またドレスに着替えた。
件の屋敷に着くと、こないだのボウズが玄関前で膝を抱えてしゃがみ込んでいる。
「どうした、ボウズ」
俺の顔を見るとそのボウズはあの笑顔を向けてくる。
「本当に来てくれた!」
え?
「坊ちゃん、そんなところにいないで、中でお話なさいませ」
先程の使いの者が顔色を曇らせている。
もしかして、跡継ぎ君というのは……。
「あなたとの食事はとても美味しかったです。お願いです、これからも僕と一緒にごはんを食べていただけませんか?」
おぃぃ、熱烈なプロポーズだな……。
俺はどう言えばこのボウズを傷つけずに断れるか、でもこの屋敷のメシは確かに美味かったんだよなぁ、と心揺れるのだった。
9/23/2025, 1:36:46 PM