池上さゆり

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 いつだって私たちは海を走っていた。季節も、時間も関係なく。会うたびに車で海を走る。夜中のときは、どこまでも深く吸い込まれそうなほど恐ろしく感じる海も、彼となら楽しく過ごせた。
 砂浜に寝転がって、服の隙間に入った砂もおもしろく感じるほど、彼と過ごす時間は特別なのだ。
 それなのに、突然終わった。
 LINEの返事が来なくなって、電話も繋がらなくなって、家に行ってもいなくて。意味がわからなかった私は、ただひたすらに連絡を待ち続けた。
 だが、その答えを突然知ることになった。ニュース番組でいつも走っていた海沿いの道路からガードレールを突き抜けて、車が海に落ちたのだ。なんとなく近場だなと感じただけで、テレビから目を逸らそうとした瞬間、彼の愛車が映った。信じられなくて、テレビに飛びつく。続けて映されたのは、その事故で亡くなった彼の顔写真と名前だった。
 あまりのショックに視界がくらみそうになった。私は夢を見ているのだと思おうとした。
 そして、私のほうに彼の訃報が届かなかった理由にも気づいた。
 元々、遠距離恋愛で彼が地元を飛び出して私が住んでいるところまで来た。その時に笑顔で、親とも縁切ったなんてことを言っていたのを思い出した。私は彼の両親を知らないが、きっといい思いはしなかっただだろうし、私のことも嫌っていたのかもしれない。
 線香だけでもあげに行きたいと思ったが、あいにく彼の実家の住所は知らない。
 毎日飽きずに見続けた窓から見える景色と彼の車で流した音楽、くだらない会話もすべてを抱きしめながら。
 彼が事故を起こした場所で、最後の愛してるだけ残して私は立ち去った。

9/25/2023, 1:04:15 PM