シオン

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「鳥のようにこの世界から羽ばたけたらどうしようか」
 演奏者くんは突然そう言った。
「…………なにそれ」
「そのままの意味だよ」
 全く答えにならないような返答を返され、仕方なくボクは考えることにした。
 鳥のようにこの世界から羽ばたけたら。
「…………他の世界に行くとか?」
「人間界に遊びにいくとかかい?」
「…………わかんないけど」
 人間界には興味がない。元迷い子のボクはきっと人間界に前は住んでいたはずで、そこで上手くいかなくて人間界から逃げ出したくなってここに来たのだからきっと戻りたくだってないような気がする。
 まぁ口が裂けてもそんなことは言えないけれど。
「……僕はね、きみがいつもいる場所に行ってみたい」
「…………………………え?」
「何回かきみの後をつけたことがあるんだけど、きみはいつも花畑の向こう側の壁の向こう側に消えてしまうから。だから、そこを乗り越えて何してるか見たいんだ」
 言われたのは権力者タワーの場所だった。
 あれは壁じゃない。人を区別してる、というより権力者じゃない人が通れないようになっている。だから演奏者くんなんて絶対に無理なのに。
 そもそも真実なんて言えず、さらにニコニコと嬉しそうにしている演奏者くんに水を挟むような真似もできず、ボクは微笑むことしかできなかった。

8/21/2024, 3:55:41 PM