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ベルの音…。

さて、どうしようねぇ。

頭の中で言葉を拾っていく。
カフェ、コンビニ、クリスマス。

…どれも設定をしっかりしないといけない。時間がかかる話ばかりだ。

こういうのは時間と体力に余裕がある時でないと。

拾い上げた言葉たちをポイっと捨てる。

もう少し、気楽で良いものはないだろうか。
ため息をついているとふいにカードが目の前にやってきた。

いつも言葉が書いてあるカードだ。
今日は何故か白紙だ。

「さっきからカードを人からひったくってポイ捨てするとは、何です?嫌がらせですか?」

えっ、あの言葉たち君のだったのか。
ひったくった覚えないし、自分のだと思っていたんだけど。だからこう、軽い気持ちでポイポイっとしちゃってたんだけど、マズかった?

「まったく、ポイ捨てした言葉が今頃思考の海を荒らしてますよ。傘を持ったあの人に怒られても知りませんから」

あぁ、あの傘を持った理屈屋を怒らせると面倒くさい。屁理屈まで捏ね始められたら手に負えない。
早々に退散しなければ。
…はて、どうやって逃げ出そうか。そもそもいつの間にこの空間にやってきたのだろう?

「貴方が思考する時、私達はいつでも側にいますよ。思考と現実の境目が曖昧になれば…」
あとは、秘密。
そう言うとカードを差し出してきた。

「ベルの音」

どこか遠くでベルが鳴っている。

「見ようとしなければ見えない。聞こえない。貴方の意識と無意識の…」

カードの人物が何かを言っている。しかし、ベルの音が大きくて聞こえない。

待って。何か大切な事を言っているでしょう?

ベルの音がけたたましく鳴り響く。

五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。

ベルの音から逃れたくて思わず手を振り上げる。
硬い何かに手が当たった。

すると、あれほどうるさかった音がピタリと止まった。

ハッとして、何かを打ち付けた手を見ると、
目覚まし時計が倒れていた。

時計。アラーム…。

思わず呆けているとどこからか

「ほら、これも立派なベルの音」

そんな声が聞こえた。

12/20/2023, 12:12:24 PM