時計の針が重なって
ニコニコ笑うことが疲れた。
朝起きることが疲れた。
人と話すことが疲れた。
ものを食べることが疲れた。
何もしたくない。
全て疲れた。
そうして足が向いたのは建物の屋上だった。
目を閉じた。
1歩踏み出した先は何も無くて、ジェットコースターのように落ちていった。
目を開けると、私の体はブルーシートに覆われた空間からストレッチャーで運ばれて消えた。
笑いが込み上げてきて、腹の底から笑う。涙が溢れる。何が面白いのか分からない。何が悲しいのか分からない。泣き声にも笑い声にも似ても似つかない声は空を切るように響くが誰の耳にも届かない。
ボーン
どこか古めかしい音が聞こえて振り返る。
どうやら音の主はアンティークにも新品にも見える大きな振り子時計らしい。カタカタと振り子時計の中で忙しなく動く歯車の音が聞こえる。
これはなんだろうと近づくと、針が23:56を示していた。先程の音は23:55を知らす音だったようだ。
振り子時計の中を覗き込むと、大小様々な歯車が見える。さらによく見ると、歯車に模様が刻み込まれていることに気づいた。
友達と笑ってる姿、部活動をしている姿、家族と談笑してる姿、アルバイトをしている姿、黒板に向かっている姿、振袖姿、制服姿。全て、私の過去の1ページを切り取った模様が浮かび上がる。
ただただ幸せに笑ってる姿や何かに真剣になってる姿を目にして、涙が溢れてくる。
泣いたその声もまた、誰の耳にも届かない。
カチッと確かに何か違う音がして、振り子時計を見上げる。
0:00、アナログの針と針がちょうど重なった瞬間だったらしい。
ボーン ボーン ボーン ボーンと、大きな音が鳴り響き、振り子時計が眩しく光り、さらに大きく、扉付きの時計へと姿を変える。
ギィと音を立てて開いた扉の先は何も見えないただただ白い空間。
少し後ずさる私に、扉から伸びたいくつもの白い手が絡みつく。抗えない強い力に引きずられ、白い空間へ私は飲み込まれた。
9/24/2025, 11:51:23 AM