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『たそがれ』(誰そ彼)

 そいつが声を掛けてきたのは、巨大な岩を転がせずにへたり込む情けない亡者を足蹴にしている時だった。陽気に声を掛けてきたそいつに、オレは亡者を蹴るのを中断して「よぅ」と返す。
「相変わらず仕事熱心だな」
「好きでやってんじゃねぇよ。こいつらの足腰がもっとしっかりしてたらオレももっと楽できるんだ」
「違いない」
 オレの冗談にそいつは大口を開けてガハハと笑う。マスクから伸びる二本の角がそれに合わせて揺れた。
 朗らかに接するオレだったが、頭の中は一つの疑問で埋め尽くされていた。

 こいつ、誰だっけ?

 こいつとは昔からの知己であり、第三獄を管理する同僚でもあった。当然、初めて顔を合わせた時にお互い自己紹介もしているはずなのだが、何故か名前を思い出せない。天敗星という宿星は覚えているのだが、そこから先が出てこない。今更本人に「失礼ですがお名前は何でしたっけ?」と聞ける訳がないし、かといって上司のラダマンティス様に確認するのも憚られる。
 そのため、顔を合わせるたびに愛想笑いをしているものの、実際頭の中はハテナマークだらけだ。
 あぁ、マジで思い出せない。

10/1/2023, 11:57:38 PM