ゆいに

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あーきのゆーう
      あーきのゆーう

ひーにー てーるやーまーもーみーじー

      ひーにー てーるーやーまーもーみーじー


こーいもうーすーいーもー
       こーいもうーすーいーもー


かーずーあーるーかーずーあーるーなーかーにーかーにー


「ていうかこの唄小学生用じゃねっ⁈しかも昭和平成のっ?」

クラスで非実在親切ギャルとして名を馳せている『フレンドリー中井』こと、中井ミツは唐突に振り返って叫んだ。二人は文化祭の音楽部の演し物として「うたごえ喫茶」という、誰もが伝説でしか知らない喫茶店を選んだのだ。当然部の全員が「それはどういう喫茶店なんだ」とざわつき、言い出した当人達が喫茶店で歌う簡単でレトロな曲を模索することになった。
ここで冒頭の輪唱に戻る。

「いいんじゃなくて?最近は教科書に載らなくても漠然とは知っているかんたんで懐かしっぽいエモ曲。一瞬で想像できるメロディライン。
そう、わかりやすさは正義!」

ニチアサをこよなく愛する『アニオタお嬢ヒラっさん』こと平野あけるは何故かそこでスペシウム光線を放つムーブをした。

「まあ確かにどこかでは聴いた。聴いたけれども…もうちょっとオシャレな…」
「エモさの質が違う」とギャルが葛藤する。


アニオタお嬢が綺麗に太腿を上げ、片足でバランスを取りながら「いい、わかりやすさは正義!お客さんは全員ズブの素人。しかも別に歌いたくてくるんじゃなくて知り合いに呼ばれて来るだけ。ならばわかりやすさと『皆んなで歌を歌った』という一体感がなんとなくいい思い出として残るの」

「アタシはもっと『レイニーブルー』とかYouTubeで外人が聴いてるようなちょっと切ないシティポップが…」

「そんなマニアックな歌についていけるのはオタクだけ!」

じっさい中井も知らないんでしょ、調べて練習しないと歌えないんでしょ」とアニオタお嬢ヒラっさんが畳み掛ける。中井は反論できない。

「皆んな歌ってくれるかなあ…」
「レイニーブルーよりはね」


「じゃあ我慢する」
「中井はいったい文化祭の喫茶店にどれだけの夢を見ていたの」
冷徹なアニオタである。


突然非実在ギャルが噴き上がった。
「だってヒラっさんとやる最後の文化祭だよ。想い出だよ。エモエモだよ?」

「エモエモ言うな」

「あーわたしもっとヒラっさんと色んな想い出作っとけば良かったー!海とか山とか渋谷ハロウィンとか!マスクと自宅とマスクと自宅でほぼ終わったじゃん!」

「アタシは自宅ニチアサで推し活充実してたわ。でもね、」

アニオタお嬢がすっと架空のベルトを腰にセットする仕草を決めてギャルを見つめた。

「アタシと想い出作りたかったらいつでも遊びに来ていいのよ?」

一瞬、ギャルの脳裏にあの訪ね辛い豪邸が過ったがすぐさま振り払ってギャル中井はお嬢の腰に縋りついた。

「マジヒラっさんこれからも友達でいてくれるのっ⁉︎イケメンっ❗️しゅきっ❣️」

「幼児に戻るな中居ミツ!」腰に縋りついたギャルをフラフープの要領で振り解きながらアニオタお嬢は気を取り直した。

渋谷ハロウィンはもっての外だが、アキバ巡りと聖地巡礼の『とも』が出来た。
これから各地の聖地へと連れて行ってやろう。

まさか全国のアニメ聖地巡礼に振り回されるとは夢にも思っていないギャル中井ミツである。青春はまだ見ぬスケジュールの中で渋滞している。




9/26/2023, 10:45:54 AM