柊リテラ

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2. 半袖

俺の恋人は年中薄着だ。家の中では半袖短パン。半袖じゃなくてタンクトップの時もある。薄着なのは外でも変わらない。夏は家の中と同じく半袖短パン。冬は薄いチュニックやトレーナーにサマーパンツ。ヒートテックなんて家には1枚もないし、コートは数える程しか着ない。
家の外での服装は公序良俗に反していなければ良いし、正直、好きにすればいいと思う。だが、家の中では……特に俺の前ではやめてほしい。目のやり場に困るし、恋人だからその……興奮するというか……劣情を抱いてしまうのだ。それとなく何度かやめてほしいというお願いをしたのだが……。

「ぜーっっっったいヤダ。」

この拒否されようだ。俺がどんなに懇々と理由を説明しようとお構いなしだ。むしろ説明すればするほど、簡単に脱げてしまうようなゆるゆるの服をこれ見よがしに着るのだ。

「なあ。寒くないか?上にもう1枚着た方がいいんじゃないか」
「べっつにぃー。オレは寒くないしー」

寒いなら温度上げれば?とわざとらしく服の襟ぐりから肩を出して煽られる。仕方ない。乱暴な手は使いたくなかったのだが……何度言っても改善の余地が見えないのだ。仕方あるまい。強硬手段に出よう。
仰向けのときを狙って抱き上げる。じたばたと暴れるがお構いなしだ。

「ちょ、ちょっと!何すんだよ!」
「あんまり暴れると落ちるぞ」

寝室まで恋人を運び、少々手荒にベッドへ下ろす。

「まだ昼間なんだけど?!」
「それがどうした?」

にっこり笑みを浮かべ、手首をシーツへ縫いつける。恋人の頬が引きつっている。

「○○ごめんッ、謝るから……!」
「もう遅いな」

往生際が悪い恋人の顎をすくって口付けた。



翌朝。身支度を整えていたらしい恋人の絶叫が聞こえてきた。ドタバタと走る音が近付いてくる。怒り心頭といった様子で、ベッドに腰かけている俺の前に立つなり自身の首筋を指さして抗議してきた。

「おいッ、○○!!なんだよこれ!!」
「昨日付けた痕だな」
「そんなことはわかってんだよ!オレはなんでこんなに付けたんだって聞いてんだよ!!」

子犬のように吼える愛しい男の首筋にはおびただしい数のキスマークと歯形が付いている。

「フン、そんなに付けられるのが嫌なら服装を改めることだな」
「べっ、別に嫌だとは言ってねえだろ……」

昨日の行為は満更でもなかったらしい。〝あれは〟彼なりの誘いだったようだ。顔を見られたくないのか、そっぽを向く恋人をニヤニヤ笑いながら見つめる。

「と、とにかく!こんな姿で外を歩けないからどうにかしろ!」
「首が隠れる服を着ろよ」
「そんなんオレ持ってねえよ!」
「じゃあ、俺の服着ればいいだろ」
「え、そ、そんな恋人みたいなこと……」

そう呟いて頬を赤らめる恋人の腕を掴む。

「もう今日は外出るな。いや、出られなくしてやる」
「はっ!?なあ、おい待てよ、待てって!!」

彼が開放されたのは太陽が赤く染まる夕方だったとさ。

7/25/2025, 4:24:09 PM