作家志望の高校生

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いつもお前はそうだった。どうしようもないくらいお人好しで、他人に甘い癖に自分に厳しい。そんなんじゃすぐ潰れるぞと何回言っても直らなくて、目が離せなかった。戦場では、優しさは弱さと同義だ。味方を庇おうと思えばその分隙になる、命を救おうとすればそこに付け込まれる。それが、戦場というものだ。誰が悪い訳でもない。そうしないと、生きていけないから。それでも、お前は優しかった。傷付いた味方を見捨てられなくて、お前は右目を失った。空腹で泣き喚く子供に食糧をみんなやってしまうから、お前はいつも空腹だった。なのに、お前は笑っていた。誰よりも幸せそうに、ここが戦場だと忘れてしまいそうなくらいに。無愛想で、血を浴びながら平然と立っているような俺に声をかけたのはお前くらいだった。お前のせいで、俺は冷酷になりきれなくなった。
戦況が悪化して、俺達は辟易していた。攻め込んでも倍の軍勢に押し戻され、一人、また一人と仲間が死んでいく。優しいお前はその度に泣いて、一人が死ぬ度に弱っていく。そんな優しいお前と居たから、俺まで弱くなってしまった。
腹を貫かれる痛みが、燃えるような熱さが、俺の頭を支配していく。弱りきった味方を庇って敵に撃たれるなんて、前の俺ならしなかった。
でも、お前だったから。弱りきって狙われたのがお前だったから、俺は庇った。お前の優しさで、俺は救われた。でも、優しいお前のせいで、俺は死ぬんだろう。だから、優しいお前の隣にいた冷酷な俺として、最期に最悪の置き土産をやろうと思って、お前を傷付けると分かっていて、それでも生きて欲しくて。俺は、お前の優しさを壊した。

「お前の優しさは、罪だったよ。」

テーマ:やさしさなんて

8/10/2025, 10:27:15 AM