帰り支度をしている背中を呼び止めた。
「飲みに行きません?」
「行かなーい」
にべもない返事。
「なんか用事でもあるんすか?」
「まあねー」
「そっか。じゃあ、またの機会に」
無理に誘うのもかっこ悪いからやめておく。
ダサい男だと思われたくなかった。
「ごめんねぇ」
歩き出す後ろ姿はいつも颯爽としていて、俺はそれを見送るのが好きで。
きっとこの人はどこでもこんなカッコイイままなんだろうと、思ってたから。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ、許してください、ぶたないで、やめて、やめてくださいっ、·····助けてっ!!」
玄関を開けるなり飛び込んできたあの人に、俺は目を白黒させて。
月明かりの下、ギラリと光る物をみとめて。
――今まで俺は、なんて狭い世界を生きてきたんだろうと、思い知らされた。
END
「moonlight」
10/5/2025, 4:42:20 PM