少女の目は悪魔の眼。彼女の目を見たものはこの世から居なくなってしまう。そんな伝説がある。
少女の瞳は、人間という生物上絶対にありえない真っ赤な瞳で、眼の中央は紫色で染まっていた。
呪われた子。
必要のない子。
存在してはいけない子。
そんな言葉がそれが少女の2つ名だった。
しかし少女の親だけは、彼女を愛していた。しっかり愛情を与え、時に厳しく時に優しく。
少女はまっすぐに育った。人間の友達こそ居なかったが、様々な動物達に囲まれ生きてきた。
……そんな世界が続く訳などなく。
「やめて!この子は悪魔なんかじゃないわ!」
母の悲痛な叫び声、父の怒号。少女を守ろうと動物達が立ちはだかる。
刹那、銃声が響き世界は静寂に包まれた。少女の顔に生暖かい液体が飛び散る。目の前の世界が真っ赤に染まる。
「死ね!悪魔め!!」
パァン!と乾いた銃声、と同時にぐちゃりと少女の足元に転がる人間だったナニカ。
「初めましてお嬢様。……いや、我が主。お迎えに上がりました」
「……どなたですか?」
「貴女は嫌いな言葉かもしれませんが……ワタクシ悪魔と呼ばれている者でございます」
「…………何の御用ですか?」
「貴女には我々悪魔の主になれる素質がある。是非我々と共に世界を創りなおしませんか」
「………………」
「貴女の……主の力を貸して頂きたいのです」
「……力を貸せば、…………」
「…………何でしょう」
「…………力を貸せば、この色がまた見れる?」
そう言って少女は人間だったナニカを見つめる。悪魔が強く頷くと、少女は1歩ずつ悪魔の方へと足を進めていった。
「私ね、この色初めて見たの。赤とも黒とも違う、この色」
「そうなのですか。ワタクシもこの色は好きですよ」
「私、この色好き。だから」
ぐちょ、ぐちょ。少女は人間だったナニカを踏み潰していく。素敵な足音を立てながら、悪魔の目の前まで行くと床に転がっていた肉片を拾い上げ、幼い手で握りつぶした。
「この色……この大好きな色、沢山見せてくれる?」
「えぇ勿論。仰せのままに、我が主」
少女は頬に飛び散った液体をぺろりと舐めとって、にっこり悪魔に微笑みかけた。
……少女の目は悪魔の眼。彼女の目を見たものはこの世から居なくなってしまうのだ。
『好きな色』
6/21/2024, 10:52:24 AM