ゆさりゆさり、と揺れている
いつものわたしよりも高い位置に顔があって、見える風景が違う。
ゆさりゆさり、だいじょうぶかな。
あたしを頭を少しだけ反対に回した。
そこには、貴田くんの顔が近い。
ひえー。どうしてお姫様抱っこされてるんだろう?
そうだ、体育の時間に倒れたのだ。それで、保健室に連れて行かれてるのかな。ああ、いづみさんが、すごく睨んでいたっけ。あとで、イジワルされなきゃいいなあ。
「大丈夫か?」
貴田くんは、わたしの目を覗き込むようにした。そして顔を近づけてきた。ええと?
「俺の額にお前の額を当てろ」
つまり、熱を測るの? なにその、少女漫画的展開?
「い、いいよ。もう、歩けるし」
「お前、重いな」
「は、はあ? ちょっと、おろしてもらえますか!!」
いささか、キレながら、わたしは、貴田くんの密着した体から離れた。
「ま、まあ、お礼は言っとくわ。あ、ありがと……。でももう1人で大丈夫だから。貴田くんは授業に戻って」
貴田くんの顔つきが、笑顔で、ちょっと安心する。
「これから、バックれねえ?」
「へ?」
バックれるとはサボることだろうか。えー?
「ど、どこへ?」
「見ろよ」
そういうと、貴田くんは、ジャージのポケットから財布を見せた。
「学校の裏山でジュースでも飲もう」
健全なのか不良なのかわからない。いづみの顔が一瞬思い出されたが、彼女に義理立てする必要性もない。
不思議な気持ちだった。わたしは、特に美人でもない。貴田くんは、まあまあのイケメンと女子の間では割と人気だ。
「へんなこと、考えてない?」
「ま、さ、か。それは、もっと近くなってだろ。俺はケダモノじゃないぜ」
ふむう、信じられるけど。毎日の学校でのまじめよりの彼を見てるなら。
「わたし、保健室行くね」
「まじかよ」
貴田くんが本気みたいだからこそ、わたしは、その気持ちに応えるために、そう言った。
「じゃあ、放課後、あいてるか?」
「ん、考えとく」
学校、楽しくなりそうだな。
わたしは、そして、歩き出した。しばらくして振り返ると彼はまだこっちを見ていた。
わたしは手を振る。
貴田くんも、手を振った。
11/21/2024, 3:24:36 PM