「ごめんね」
それは、誰の言った言葉だったろう。
カーテンの隙間から漏れる光に、私は目を覚ます。時刻は、五時十三分。
「ふあ……」
大きく欠伸をして、カーテンを勢いよく開く。窓の外には、山吹色に染まる空が広がっている。
「よし」
玄関を出ると、まだ夢から覚めていないかのように、言葉を噤む街並みが広がる。その通りを、私は駆け抜けていく。走っていれば、何も考えなくてすむから。悲しいことも、寂しいことも、辛いことも、何もかも全て。
「ごめんね」
それは、私の言葉だったのか、それとも、彼女の言葉だったのか。そんなことは、もう意味なんてない。けれど。
駆けていく私の頬を、涙が伝っては風に流れていった。
5/30/2023, 6:14:38 AM