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「マァ!あなた、おやめなさい。みっともないですヨ。」
「エヘヘ、お母サンごめんなさァい。だって、こうすると男の人達が吸ってるタバコみたいになるンだもの。」
「全く……。お父さんが見たらなんて言うと思う?」
「ウゥン……大人になったなァ?」
「コレ、ふざけないの。女の子なンだから、慎ましくお淑やかになさい。」
「はァーい。」
少しだけ拗ねたように膨れた子供の林檎色の頬に、母親の手袋に包まれた手が触れる。
愛に満ちた顔で我が子を見つめ、頬から手を離し、手を繋ぐ。
「サ、早く帰らないと。今夜はあなたの好きなオムレツよ。嬉しい?」
「うん!お母サンのオムレツ、大好きだモン!お母さんの子に生まれて、あたし凄く幸せ!」
「マ。さっきまでむすくれていた子はどこにいったのかしら?」
「知らなァい!」
母親よりも先を走る小さい子供の口から、また白い息が揺蕩う。
手を繋いだまま駆け出す我が子に、つんのめりながらも小走りでついていく母親が諌める気配は全くない。
だって、ただ己の愛しい子が元気に走る様子が愛おしくてたまらないから。
結局どんなにふざけていても、おどけていても、笑ってる我が子がそこにいれば、それだけで母親は幸せだから。
だから、こうやってはしたなく走った事は、家に着いて、ほんのちょっぴりのお説教でおしまいにする。
お叱りだって、愛であることに変わりはないのだ。
12/7/2025, 3:42:40 PM