しずの

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病院帰りの午後4時半。

かれこれ40分、
娘は水溜まりを見つめている。
時々手を浸しては、それをゆらゆらとかき混ぜている。

午前中雨が降っているのを見た時から、これは想定済みだった。

通りすがりの人々の視線もおかまいなしだ。
何度も何度も同じように水溜まりをかき混ぜる。
飽きることはないのだろうか。
それともこの子の特性が、そうさせているのだろうか。

発達障がい。と初めて聞いた時、
当時何も知らなかった私は、今まで積み上げてきた子育てや人生の概念がすべて覆って雲の中に包まれた気がした。
見ないように、気づいていないふりをし続けたこの子の行動が、一気に現実味を帯びて迫ってきた。


私はひたすら待ち続ける。
この子の気が済むまで。


ポツ…ポツとまた雨が降ってきた。

娘は不快そうに声を上げて、私にしがみつく。
カッパの感触がいやだと言って 意地でも着てくれないこの子が、風邪をひかないように、

傘で守りながら、手を繋ぐ。

雨音は私たちに「早く帰れ」と言わんばかりに勢いを増していく。

この子にはこの水溜まりが、雨が、世界が、
どんな風に見えているのだろう。
他の子と違うんだってまた考え始めそうになって、
止まらなくなりそうで、心を無にした。

それでもこの子が、
水溜まりに目を輝かせていたのを思い出して、

「楽しかったね。」

と私は優しく呟いた。



「雨音に包まれて」

※創作です

6/11/2025, 11:35:50 AM