「ありがとう」
口角を上げた。
「全然!」
従兄弟も口角を上げた。
「これ、何?」
「何かわからないで貰ったの!?これは時計」
「そうじゃなくて何の時計とか誰の時計とかそういうの」
「あぁ!それはお前の母親の形見、だった気がする。あんまり覚えてないわ」
少し驚いた。
従兄弟は母に懐いてように思えた。
そんな母の形見を覚えていないのは、どうにもおかしいように感じた。
「俺はそろそろ帰るけど翔(しょう)はどうする?」
「もう少し残ってるよ」
「そうか、また明日来るから、じゃあな」
手を振って見送った。
従兄弟が居なくなると静かになって不気味さを増す。
俺は今家の中。
リビングを見回す。
懐かしい雰囲気。
微かに木の匂いがする。
この家は元々俺と母と父が住んでいた家だ。
しかし、それから母が亡くなり俺も高校生になって一人暮らし。
結局父一人になったのだ。
そんな父も最近施設に入る事になり、それに伴いこの家も取り壊される事になった。
家にあった思い出の数々も大分捨ててしまった。
結果残ったのはさっき貰った母の形見と三人が笑っている写真が一枚。
「!懐かしい…」
床にはクマのぬいぐるみが転がっていた。
母と父がくれた誕生日プレゼント。
クマを床から抱き上げる。
毛は黒ずんでおり、元の茶色は全く分からない。
クマの目を見つめていると、ふとある事を思った。
〜次の日〜
「おはよー!」
従兄弟は元気な挨拶をしながら家に入ってきた。
「今日は四葉のクローバーを見つけたんだ」
「あのさ、その…」
「?どうかした?」
「俺もうそういうの要らない」
はっきりと言い切った。
「………」
従兄弟はしばらく目を見開き口を開けて突っ立ていた。
「…は?今なんて?」
「要らないです」
もうこれ以上要らないものを増やしたくない。
「どうしたの急に、昨日だってニコニコして貰ったじゃないか」
「要らないです」
「……折角お前の為に四葉見つけたのに」
舌打ちをして俺を睨んでくる。
やっぱり帰る、と言って玄関に行ってしまった。
追いかけると既に靴を履き終わっており俺の事を睨んでくる。
そして、去り際に一言。
「明日も来るからちゃんと受け取れよ」
まだ分かっていなさそうな一言に苛ついて俺も一言だけ言った。
「もう何もいらない」
ー何もいらないー
4/20/2024, 12:13:58 PM