声が聞こえる
「大森小学校、七不思議ツアー、レッツゴー!」
「イエーイ♪」
盛り上げるべくパチパチと拍手をおくる。学校に来るにはかなり遅い時間、塾に行くふりをして集まったのはいつものメンバー。タカオとマサキ、コウジとユキヒロ。
肝試しをしよう、じゃあせっかくだから学校の七不思議をまわってみよう。トントン拍子にそんな話が進んだのは、きっと勉強尽くめの日々に嫌気が差していたから。
夜の学校は独特の雰囲気がある。昼間は騒がしい廊下も物音ひとつしない。
「てか、うちの七不思議って何があんの」
「トイレの花子さんは?」
「いや、さすがに女子トイレには入れん」
「じゃあアレだ。動く人体模型」
「人体模型って倉庫に片付けられてなかったっけ」
「あー、理科室で見掛けないかも。あれは、二宮金次郎が走るってヤツ」
「そもそも二宮金次郎像ないから」
「えー。この学校何があんだよ」
「西校舎の四階で声が聞こえるってのがあるよ」
「そんなのあったっけ?」
声ってなに、あやふやだなー。ツッコミながらも西校舎へ向かう。辿り着いた四階はより一層暗く感じる。いつもの仲良しメンバー、普段は会話が途切れることもないのに雰囲気にのまれ口数も減る。
「…えーと、何だっけ、声だっけ」
「うん、そう。みんなと一緒にいれて久々に楽しかった」
…あれ。いつものメンバー、仲良しメンバー。タカオとマサキ、コウジとユキヒロ。…あれ。これは誰の声だっけ?
次の瞬間、絶叫が響き渡る。一斉に駆け出しその場をあとにする。
ふふ、久々に子供の驚く顔が見れた。まったく近頃のガキときたらゲームやスマホばかりでつまらない。かつてはどの学校にも存在した七不思議も廃れつつある。
花子は垢抜けたコギャルに転身してお洒落な複合施設のトイレに引っ越し。人体模型のガンさんは見た目のグロさからどこぞの倉庫へ追いやられ。金さんに至っては歩きスマホを助長するなんて言いがかりを付けられ、撤去されてしまった。
やんちゃな四人組にそっと声を掛け夜の学校へと誘い。普段は防犯の観点から忍び込むことも出来ない学校の扉を開け。
僕はここにいるんだから。たまには僕の声も聞いてね。
9/22/2024, 2:01:52 PM