きみが突然、デパートに行こうって言うから。何か欲しいものがあるのかな、って思ったの。
デパートに着いてみたらびっくり。
人が多いし、みーんな寒いからか肩寄せあってたのしそうなの。しかも、デパ地下が大盛況。あ、もしかして! ってちょっと期待。けれど、ぜーんぜんそんなことなかった。きみってばスタスタ。
もう、何なのさ。
ちょっと期待しちゃってばかみたい!
エスカレーターで、一階二階三階……そんなに昇るならエレヴェーターでよくない? そしたら、乗るべき人が乗れるように。
そういうところ、律儀で気持ちいい。
連れて来られたブース。
え、これ結構なブランドのお店じゃないの? きみってば、ちょっと倹約思考。あんまりイメージないのに。
並べられている防寒具。
……値札をね、ぺらり。もう、もう、卒倒!
なのにきみったら、
「どれがいいでしょうか。……あなたなら、どれを選びます?」
「!、!、!? ぼ、ぼくに選ばせる気!?」
「参考にします」
「ゔぁあ!」
ひどいこと言うんだから!
選べ選べって。ぼ、ぼく、モールの安売りとかファッションセンターとか百均くらいでしか買わないよ。審美眼とか慧眼とか持ってないんだから。
とにかくきみに似合いそうなものを、機能性とかあったかさとか、必死で見繕う。店員さんに話しかけられないかビクビクしながら、冬なのに嫌な汗いっぱいかいた。
ふい、と見ればきみ、店員さんと普通に話しちゃって!
ぼくがばかみたい!
選んだものをきみに見せて。
もう、値札なんか気にしてやらないんだから。
ぼくが選んだものと、きみが選んだものを見比べたり、着けてみたり。うんうん、って。
…………きみがたのしいなら、いいや。
「ちょっとこれ、着けてみてください」
「ぼくが?」
「客観的に見たいんです」
「ふぅん」
ぴったりな二対。
親指から小指まで寸分違わず。
「うん、良さそうですね」
「でもこれ、きみの趣味じゃないよね?」
「ええ。あなたのですから」
「は」
流れるようにぼくから手ぶくろを取って、店員さんに渡そうとするんだから!
そういうの、そういうところ……!!
確かにぼくの好きなデザインだけれども!!
「ねーえーっ! お財布寂しくなっちゃう!」
「パンパンですから、減らすのがいいですね」
「きみの買うって言ってた!」
「言ってません」
くそうっ!
ピッてお会計されたそれは、目を塞ぎたくなるほどの表示が出てて。しかも、別途できれいなラッピング。ほんと、ほんとさぁッ!
「……ありがと。うれしいけど、なんで急に」
「あなた、自転車に乗るでしょう?」
「うん」
「コートにマフラーはするのに、手ぶくろをしていなかったから」
「……うん。片方失くしたの」
「ふふ、いい機会でした」
「……ありがと」
「えぇ。どういたしまして」
めっちゃうれしい。
絶対今度着ける! 失くさない! って思ってたんだけど――――家から出て、おっきな坂道下ったところで気づいたの。
「あ゛ッ! 手ぶくろ忘れた!! ゔぁああッ」
グリップを握る手が真っ赤っ赤。
……すっごく、すっごく、さむい。悴んでるし、ジンジン。せっかくきみが、あったかいように、って買ってくれたのにぃ!
ぼくのばかぁあ!!
#寒さが身に染みて
1/12/2023, 2:32:00 AM