「あ、来た!」
ドアホンのモニターから外を確認すると、郵便配達員がボストに何かを入れている姿が見えた
有紗は朝からそれを今か、今かと待っていたのだ
先月受けたデザインコンテストの発表通知が今日届くことになっていた
今時には珍しく、オンラインではなく個別に通知が来るシステムが未だに採用されている
有紗の受けたコンテストは昔からの権威あるもので、今回のテーマは国主催の大きなイベントを象徴するマークを作成するもので、このコンテストは商業デザイナーとして活躍するための登竜門として知れ渡っている
有紗もその道を目指す一人として是非ともその栄冠を掴みたいと日々努力を重ねてきたのだ
震える手でポストの扉を開けた瞬間、すべて上の方に張り付いていた内臓があるべき場所に戻った様な感覚がした
「やった… 受かった…」
その封筒は今まで何度となく涙を飲んできた薄さの封筒ではなく、しっかりと厚みのある合格を知らせる確かな重味だった
これまでの努力がようやく実った嬉しさが胸に込み上げ溢れ出す涙に天を仰いだ
まるでその様子をどこかで見ていたかのタイミングで花屋が贈り物を届けに来たという
お祝いの熨斗が大きく貼られた胡蝶蘭だった
その状況が全く理解出来ずに受領のサインをしていると
これまた絶妙なタイミングで家の中から電話の鳴る音がした
その電話は父の事務所の人間からのもので、大袈裟なほど妙にテンションの高い声がする
「いやぁ〜、この度は大変な賞を受賞されたようでおめでとうございます〜
まもなくお花も届くはずで…
えっ?もう届いた? これは、これは、本当におめでたい!
理事長様のお嬢様ですものね〜
そりゃ、これは、もうねぇ〜
いやいや、本当におめでとうございます!」
頭から冷水を掛けられた思いがした
有紗の父はこの業界では知らぬ人のいない存在でこのコンテストを主催している団体の理事長でもあった
だからこそこれまでも本名ではなく通称で、家族の誰にも内緒でこのコンテストを受け続けてきたというのに…
何故ここに来て…
落胆と失望で有紗の手から合格通知が滑り落ちた
『最初から決まってた』
8/8/2024, 5:39:37 AM