校舎からも寮からも利便性が悪く、普段学生たちがあまり使わない自販機。
その隣に設置されているベンチに七海は座っていた。
背にもたれ、上を向いているその目にはタオルをかけているが、椋が来たことは気付いているだろう。
「ななくん、おかえり」
「……ただいま戻りました」
体勢を一切変えず挨拶だけするのは、拒絶。
しかし椋は意思を汲まず、七海の隣に腰掛けた。
しばらく両者黙っていたが、根負けした七海がぽつりと声を溢す。
「今日の任務で、二人、子どもが犠牲になりました」
「うん」
「俺が、上手くやれていれば…助けられたのに」
七海の性格からして、懺悔したいわけでも慰めてほしいわけでもない。
きっと、ただ大きすぎる感情があふれて、こぼれた。
なら、椋も思ったことを、ただ返すだけ。
「ぼくらの任務は、上手くいかなくったっていい、なんて言えない。上手くいかなかったら死に直結する。第一何をもって『上手く』いったと言えるのかもわからない。
それでも、」
この言葉は目を見て伝えたくて、七海の目を覆うタオルを攫う。
「ななくんがぶじに帰ってきてくれて、よかったよ」
【上手くいかなくたっていい】
8/9/2024, 4:01:27 PM